内部不正者の半数は「システム管理者」 ログ管理だけで防げるのか?
1. 内部不正者はシステム管理者が半数以上
企業における情報漏洩や資産の損失は、外部からのサイバー攻撃だけでなく、内部不正によっても引き起こされることがあります。内部不正は、企業内の信頼関係を利用して行われるため、その影響は業績や信用に深刻なダメージを与えることがあります。
IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が行った調査によると、内部不正経験者の半数以上がシステム管理者であるというデータもあり、この問題がどれほど重大であるかを示しています。システム管理者は特に広範なアクセス権限を持つため、万が一不正行為を行った場合、その影響は非常に大きくなります。
IPA –「内部不正による情報セキュリティインシデント実態調査」報告書を基に作成
2. 内部不正が発見されにくい理由
内部不正は、外部のサイバー攻撃と異なり、発見が非常に難しい特徴があります。その理由として、以下のような要因が挙げられます。
正当な権限による不正
内部不正の発見が難しい理由として、正当な権限を持つ者によって行われるケースが多いことがあげられます。例えば、システム管理者は企業内で広範な権限を持ち、業務の一環として多くのシステムや情報にアクセスします。そのため、通常の業務として行われているように見せかけて不正行為を行うことが容易であり、監視システムや他の従業員が不正を見分けるのは非常に難しくなります。正当な権限を持つ者が不正を行う場合、その発見は困難です。
企業と従業員の信頼関係
企業は、従業員に対して一定の信頼を持って業務を委ねています。この信頼関係は職場文化を支え、健全な労働環境を保つ上で重要です。しかし、この信頼関係によって、内部不正が疑われず、不正行為の発見が遅れることがあります。システム管理者や権限の高い従業員は特に、日常的な業務の中でその信頼が厚く、不正行為の兆候が見逃されることが多いです。結果として、不正行為が長期間にわたり継続してしまうリスクが生じます。
監視コストと抵抗感
企業が内部不正を防ぐために監視体制を整えるには、技術的なコストや人員リソースの確保が必要です。しかし、特に中小企業ではこれらのリソースを確保することが難しく、監視体制が不十分なままになることが多々あります。加えて、従業員のプライバシーや職場の信頼感に対する懸念から、監視の強化に抵抗を示す企業もあります。過度な監視は従業員のモチベーションや信頼を損なう可能性があるため、そのバランスを取るのが難しいです。このような状況が、内部不正の検知を難しくしている一因です。
3. ログ管理の限界
内部不正対策といえば、監視のためのログ管理を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。実際、多くの企業が不正行為を抑止し、証拠を残す手段としてログ管理を導入しています。しかし、ログ管理には限界があり、それだけでは内部不正を完全に防ぐことは難しいのが現実です。
情報量の多さ
日々生成されるログデータは膨大です。サーバーアクセス、ファイル操作、システム変更など、多岐にわたる情報が記録されるため、そのすべてを分析することは容易ではありません。この情報量の多さが、異常な動きを発見する妨げとなり、不正行為の検知を難しくしています。特に、通常業務の中に不正行為が巧妙に紛れ込んでいる場合、膨大なログから異常を特定するためには多くの時間や高度な分析技術が求められます。
通常業務との区別
ログ管理では、業務として行われる操作と不正行為を区別することが難しいこともあります。たとえば、システム管理者や特権ユーザーが行う日常的な操作は、通常業務として記録されるため、そこに不正が含まれていたとしても一見して見過ごされやすいのです。正当な権限を持つ者による不正は、その業務の一環として行われるため、ログだけで異常を検知することは容易ではありません。
不正の隠蔽
システム管理者や権限の高い従業員は、ログ管理の仕組みを理解していることが多く、自身の行動を隠す術を心得ています。ログ記録を回避するための手段や、異常が目立たないように操作する方法を駆使して、不正行為を隠蔽することができます。このような巧妙な隠蔽によって、不正行為は長期間にわたり発見されないことも少なくありません。
ログ管理は確かに内部不正対策の重要な要素ですが、それだけで万全とは言えません。ログ管理の情報量の多さや分析の難しさ、不正行為の隠蔽技術を考慮すると、ログ管理の限界を理解した上で、さらなる対策を講じることが求められます。
4. 内部不正対策のポイント
内部不正は、企業にとって重大なリスクであり、その発見と防止には多面的なアプローチが求められます。内部不正において、ログ管理を行うだけでは、膨大なデータの中から異常を見つけ出し、迅速に対処することは難しいという課題があります。そのため、より包括的な対策を講じることが重要です。ここでは、内部不正を効果的に防ぐための具体的なポイントを紹介します。
最小権限の原則の導入
最小権限の原則を適用することで、従業員が業務に必要な範囲だけの権限を持つようにし、不要なアクセスを制限できます。これにより、不正行為の機会を減らし、リスクを抑えられます。定期的に権限を見直し、不要なアクセスを解除することも重要です。また、アクセス権の管理を自動化することで、ミスを防ぎ、効率的な運用が可能になります。
リスクベースのセキュリティ対策
内部不正を防ぐためには、リスクが高い部分に集中した「リスクベースの対策」が効果的です。このアプローチにより、不正の発生や影響を最小限に抑えると同時に、セキュリティ対策の効率化とコスト削減が期待できます。限られたリソースを重要な領域に投入することで、全体のセキュリティレベルを維持しながら、企業の安全性と信頼性を高めることが可能です。
従業員の意識向上と透明性の確保
内部不正対策を効果的に行うためには、企業が従業員に透明性を持ってセキュリティ体制を示すことが必要です。監視を「プライバシー侵害」として受け取られるのではなく、「組織全体の安全を守るための施策」として理解してもらうことが重要です。セキュリティポリシーを明確にし、定期的に周知することで、従業員の信頼を得られます。また、セキュリティ教育や啓発活動を定期的に行い、従業員のセキュリティ意識を高めることも有効です。
これらの対策を組み合わせることで、企業は内部不正のリスクを大幅に減少させることができます。最小権限の原則やリスクベースの対策、従業員の意識向上を実施することで、内部不正に対する抑止力が高まり、万が一の際には迅速な対応が可能になります。これらの対策を継続的に見直し、改善を重ねることで、企業全体のセキュリティ体制が強化されます。
5. 内部不正を防ぐために
内部不正の発見が難しい理由は、正当な権限を持つ者による不正や企業と従業員の信頼関係、監視体制のコストや抵抗感、そしてログ管理の限界に起因しています。これらの要因が組み合わさることで、内部不正は外部攻撃に比べて見過ごされやすく、企業にとって深刻なリスクとなっています。
こうした課題を理解し、適切な対策を講じることは、企業のセキュリティ体制を強化し、内部不正による情報漏洩や資産損失を未然に防ぐために欠かせません。セキュリティ教育やアクセス制御、リスクベースでの対策を通じてリスクを最小限に抑えることが求められます。
では、具体的にどのような対策をすればよいのでしょうか?
次のコラムでは、内部不正を防ぐための解決策について、具体的なアプローチを紹介しています。ぜひご覧下さい。