なぜログ管理は「ツール選定」から始めると失敗するのか

1. ログ管理、「ツール選定」から始めていませんか?
近年、サイバー攻撃の巧妙化や内部不正のリスク増大を受け、多くの企業様にとってログ管理体制の構築は、避けては通れない経営課題となっています。ログ管理体制を構築する際、「まずは、市場にどのようなツールがあるのか」と、製品の情報収集から着手されるケースは少なくありません。しかし、その「ツール選定から始める」というアプローチこそが、プロジェクトが本来の価値を発揮できずに形骸化してしまう、最大の要因となり得ることをご存知でしょうか。
ログ管理プロジェクトの成否を分ける最も重要な要素は、高価なツールや高度な技術力ではありません。それは、プロジェクトの最も初期の段階にある、たった一つの原則です。『何のためにログを管理するのか』という目的を、明確に定義すること。例えば、「ランサムウェア攻撃を受けた際に、迅速な原因究明と復旧を実現する」という目的が定まっていれば、収集すべきログの種類、必要な保管期間、そしてプロジェクトが達成すべき具体的なゴールまでが見えてきます。
この目的が曖昧なままでは全ての判断が場当たり的になり、結果として「ログが活用されないまま放置される」「想定外のコストに悩まされる」「導入計画がなかなか前に進まない」といった、課題に直面することになります。本コラムでは、この「目的」の定義を怠った結果として生じる3つの具体的な課題と、それらを乗り越え、プロジェクトを成功に導くための具体的な方法をご紹介します。
2. 活用されないログ
新たに導入されたログ管理システムは順調に稼働し、日々、膨大な量のログがサーバーやネットワーク機器から集められています。一見、プロジェクトは成功しているかのように思えます。しかし数ヶ月後、ログが誰にも活用されることなく、ただ蓄積され続けているという実態が明らかになります。
膨大な量のログがただ蓄積されていく
ログ管理でもっとも多い課題が、ログをためるだけになってしまうことではないでしょうか。万が一の事態に備える「情報資産」のはずが、実態はストレージコストを消費するだけのデータ群となってしまっています。そして、実際にセキュリティインシデントが発生した際、「データはあるはずなのに、どこから何を確認すればいいか分からない」という、深刻な事態に陥ってしまうのです。
なぜ、このような状態が生まれてしまうのでしょうか。それは、プロジェクトの目的が「ログを収集すること」そのものになってしまい、「収集したデータで、何を成し遂げたいのか」という、最も重要な目的部分が不明確になっていたからです。
回避する方法
この課題を回避するには、ログの収集からではなく、その利用方法から考えることです。まず、「どのようなログが取得できるか?」と考えるのをやめ、自社にとって現実的なセキュリティリスクを、具体的な利用シナリオとして想定します。
例えば、「退職者による機密情報の不正持ち出し」というケースを想定してみます。
「この時、事実関係を正確に把握し、被害範囲を特定するためには、どのような情報が必要になるのでしょうか?」
必要な情報は「ファイルサーバー上で、いつ、誰が、どのファイルにアクセスしたか」という記録です。これが、このシナリオにおけるログ活用の明確な「目的」となります。この目的が定まって初めて、「では、その記録を確実に取得・保管しよう」という具体的なアクションプランに進むことができます。このように、具体的なシナリオから逆算することで、ログは単なる記録の蓄積ではなく、ビジネスリスクに対応するための「情報資産」へと変わります。
3. 想定外のコスト負担
プロジェクトは無事に承認され、初期予算の範囲内でツールが導入されました。ログ管理体制は計画通りにスタートしました。しかし、問題はプロジェクトの2年目以降に表面化します。
想定外のストレージコスト
日々増え続けるログデータによって、ストレージ費用は雪だるま式に膨れ上がります。さらに、ツールの年間保守費用や、担当者の運用工数(人件費)といった、当初の見積もりでは見過ごされがちだった「隠れコスト」が、徐々に予算を圧迫してしまいます。結果として、「コストがかかりすぎる」という理由でログの取得範囲を縮小せざるを得なくなったり、保存期間を短くするケースも少なくありません。
この問題もまた、プロジェクト初期の「目的」の定義が曖昧だったことにあります。「何のために、いつまでの記録が必要か」という目的が明確でなければ、ログの保持期間に関する合理的なポリシーを定めることができません。「念のため、全てのログを長期間保管する」という判断になりがちで、これが無尽蔵のコスト増に直結してしまうのです。
回避する方法
想定外のコストという課題を回避する最も効果的な方法は、ツールを選定する前に、「データ保持ポリシー(どのログを、どのくらいの期間保管するか)」を明確に定義することです。
例えば、目的が「情報漏洩インシデント発生時の調査対応」であれば、関連ガイドラインの要件や、攻撃者が数ヶ月間システムに潜伏する可能性などを考慮し、具体的なポリシーを策定できます。一例として、「重要サーバーのアクセスログは最低1年間は即時検索可能とし、計3年間は安価なストレージに保管する」といった対応です。
このポリシーが、必要なストレージ容量やシステムの要件を算出するための根拠となり、長期的な視点に立った、精度の高い予算計画を可能にします。
4. 導入検証が終わらない
最適なツールを選定するために、候補となるいくつかの製品で導入検証(PoC – Proof of Concept)を実施することは、プロジェクトを成功に導くための重要なプロセスです。
決め手に欠けるツール選定
しかし、このPoCがいつまでも終わらず、プロジェクトが停滞してしまうケースが多々あります。
「Aツールは機能Xに優れているが、Bツールは操作性が良い」といったように、各ツールの長所・短所を比較する堂々巡りに陥ります。明確な判断基準がないため、どのツールも決定打に欠けるように感じられ、時間だけが過ぎていってしまいます。その結果、プロジェクトは推進力を失い、「検討したものの導入には至らなかった」という、最も避けたい結末を迎えてしまうかもしれません。
この「終わらない検証」の原因もまた、「目的」の不在にあります。
「この検証を通じて、何を証明したいのか」という目的が曖昧なままでは、評価のゴールラインを設定することができません。「多機能なツール」といった漠然とした評価軸しか持てず、客観的な判断を下すことが困難になります。
回避する方法
この課題を回避するには、検証を始める前に、PoCの「合格ライン」を具体的かつ定量的に定義しておくことが不可欠です。例えば、プロジェクトの目的が「ランサムウェア攻撃の早期発見」であれば、合格ラインは次のように設定できます。「模擬的な攻撃検知シナリオにおいて、管理者にアラートが通知されるまでの時間が10分以内であること」など。
このような明確なゴールがあれば、各ツールが自社の目的に対して十分な性能を持っているかを客観的に評価できます。期間を区切って検証を行い、合格ラインをクリアしたツールの中から、コストや操作性を比較して最終決定を下す、という合理的な選定プロセスを確立できるでしょう。
5. ログ管理の導入を成功させるために
ログ管理の導入を成功に導くためには、まず最初にログ管理を導入する「目的」を明確にしておくことが重要です。明確化された目的は、「では、その目的を達成するためには、何が・どうできる必要があるのか?」という具体的な要件を定義することができます。
例えば、「ランサムウェアの早期発見」という目的は、「不審な挙動を10分以内に検知できること」という性能要件を定義します。また、「内部不正の調査」という目的は、「ファイルサーバーのアクセスログを1年以上保管できること」という保管要件を定義します。
このようにして作成された「要件リスト」こそが、ツールを選定する上での客観的な評価基準となります。この基準があれば、各ツールの機能や価格に惑わされることなく、自社の目的にとって本当に価値のある選択をすることができます。
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