コラム

COLUMN

リスクとコストのバランスを取るログ管理戦略

  1. なぜ今、ログ管理コストの見直しが必要か
  2. 自社に合ったログ管理の考え方
  3. 取るべきログと取らなくてもよいログを選ぶ
  4. ログの保存期間
  5. コストと運用負荷を下げる具体策
  6. リスクに応じた投資でセキュリティとコストを両立

サイバー攻撃や内部不正の脅威が高まる中で、ログの役割はますます重要になっています。
不正アクセスの痕跡を追跡する、内部不正の兆候を見抜く、監査で説明責任を果たす、どれもログがなければ成り立ちません。ログは「組織の記憶」であり、セキュリティやガバナンスを支える基盤です。

しかし、近年はクラウドサービスやSaaSの活用、リモートワーク環境の普及により、収集対象となるログの種類と量は爆発的に増加しています。Webサーバー、アプリケーション、ネットワーク機器、クラウド、認証基盤、さらにはユーザー端末やSaaSまで、あらゆる場所から大量のログが生成され、1日あたり数百GB〜数TBにもなる企業も珍しくありません。

結果として、次のような課題が多くの企業で顕在化しています。

  • 保管コストの負担増
    ストレージ容量を確保するための費用が予算を圧迫。
    クラウドストレージを使っても、保存期間が長ければコストは積み上がります。
  • 分析・検索の負担増
    ログが増えすぎると検索クエリが重くなり、分析に時間がかかる。
    インシデント発生時に必要な証跡を探すのに時間を浪費し、対応が遅れるリスクも。
  • レビュー作業の負担増
    監査対応や定期レビューに必要な工数が増え、担当者の負荷が高まる。

こうした状況を放置すると、コストだけが増大し、いざという時にログを活用できない「形骸化したログ管理」になりかねません。今こそ、自社の規模やリスクプロファイルを踏まえ、取るべきログを選び、必要な期間だけ保存するという視点でログ管理を再設計することが求められています。

ログ管理の目的は「できるだけ多くのログを残す」ことではなく、必要なときに、必要な証跡が確実に残っている状態を作ることです。そのためにはまず、自社のリスクプロファイルを明確にする必要があります。

リスクプロファイルを把握する

業種・事業特性

金融、医療、公共などは規制要件が厳しく、ログの種類や保存期間も長めに設定する必要があります。一方、製造業やIT企業でも知的財産や顧客データを扱う場合は十分な管理が求められます。業種別の事故事例を参考に、どの領域のログが重要かを明確にしましょう。

扱う情報の機密度

個人情報、取引情報、設計図面、ソースコードなど、漏洩時のダメージが大きい情報に関連するログは、優先度を上げて長期保管します。

規模と運用体制

大企業ならSIEMやSOCを使った24時間体制が可能ですが、中小企業では専任担当者がいない場合も多く、収集するログを絞り込む、分析を自動化するなどの効率化が欠かせません。

コスト削減ではなくコスト最適化

重要なのは「削ること」ではなく「適切に投資すること」です。セキュリティを削ればリスクは増えますが、重要度の低いログを減らし、優先度の高いログを確実に残せば、限られた予算でもセキュリティ品質を高めることができます。

ログの取捨選択は「何となく減らす」ではなく、目的に沿って優先順位をつける作業です。

優先度の高いログ

  • 認証ログ(ログイン成功/失敗、多要素認証イベント)
  • 権限変更、アカウント作成・削除
  • 重要ファイルのアクセス・改変履歴
  • ネットワークの不審通信、VPN接続履歴
  • クラウド監査ログ(AWS CloudTrail、Azure Monitor など)

これらは監査証跡やフォレンジックに必須です。

中〜低優先度のログ

  • アプリケーションの詳細デバッグログ
  • サービスの通常稼働メッセージ
  • 大量の統計情報(CPU、メモリ使用率など)

これらは保存期間を短くしたり、必要時のみ出力する設定にするとコストが抑えられます。

実践ステップ

  1. 洗い出し:収集しているログを一覧化
  2. 分類:コンプライアンス必須/セキュリティ重要/任意に分類
  3. 決定:保存期間・保存先を決定
  4. 運用:定期的に見直し、不要ログは停止や削除

保存期間は企業によってさまざまですが、ログ管理の目的によって決められます。

法令・ガイドライン要件

個人情報保護法、業界基準、取引先の監査要件など。
例:PCI DSSでは1年以上のログ保管と3か月以内のレビューが求められます。

フォレンジック調査

インシデント発覚が数か月後になることもあるため、過去6〜12か月分は追跡可能にするのが安心。

コストと検索性

保存期間が長くなるほどストレージと検索時間が増加。直近3か月は即時検索可能なストレージ、それ以降は低コストストレージやアーカイブに移行する階層化が有効。

ポリシーの定期見直し

新しいシステム導入や業務変更時に再評価し、不要なログを停止することでコストを抑制。

コスト最適化はログの選別だけでなく、保管・分析方法を工夫することで大きな効果が得られます。

圧縮・アーカイブの活用

古いログを圧縮して容量削減、クラウドストレージやオブジェクトストレージに退避。

ログの正規化と集約

複数システムのログを統一フォーマットに変換し、分析や検索を効率化する。

自動化・AI活用

異常検知や定期レポート作成を自動化することで担当者の負担を削減。最近は機械学習で異常パターンを検知するソリューションも増えています。

段階的保存(階層化ストレージ)

アクセス頻度に応じてホット・ウォーム・コールドストレージを使い分け、コストと検索性のバランスを取る。

ログ管理は「コスト」ではなく「経営リスクへの投資」です。リスクプロファイルを把握し、「とるべきログの選定」、「保存期間の最適化」、「運用負荷を下げる工夫」を実施することで、コストを抑えながらセキュリティレベルを維持できます。

結果として、監査対応やインシデント対応のスピードが上がり、経営層への報告も容易になります。これが「最小コストで最大のセキュリティ効果」を生む近道です。

Writer 雫田 貴一
WEEDS SYSTEMSのWebマーケティング担当者。 マーケティングだけでなく、システムの導入からセールスのサポートに至るまで幅広く手掛けています。 情報セキュリティに不安を感じるユーザーの悩みや課題を解決すべく、日々情報発信に努めています。